ネットワーク接続型ストレージ(NAS)のダイアグラムは、ストレージ・デバイスがネットワーク上の他のコンポーネントとどのように接続されているかを視覚化したドキュメントです。
NAS アプライアンスは、主にコンシューマ市場で普及していますが、中小企業でも広く導入されています。大企業においても、小規模なサテライト・オフィスや倉庫などの場所に NAS アプライアンスを設置しているケースがあります。このような場合に、NAS の構成図は、情報の整理と NAS デバイスの管理に役立ちます。ここでは、NAS の構成図が必要である理由を説明します。
どのストレージ・ドライブが NAS に適しているか
ストレージ・ドライブは、NAS の重要なコンポーネントの 1 つです。そのため、NAS デバイスでは通常、エンタープライズ・グレードのストレージ・ドライブが使用されています。なぜでしょうか? この質問に答えるために、まず、NAS に使用されている 2 種類のストレージ・ドライブ、すなわち、ハードディスク・ドライブ(HDD)とソリッド・ステート・ドライブ(SSD)について見てみましょう。
エンタープライズ・ハードディスク・ドライブ(HDD)
機械式の HDD は、回転するプラッタを使用してデータを記録します。レコード・プレーヤーの針に似た機械式のヘッド部分が、各プラッタ上を移動してデータの読み書きを行います。機械的な動きがあるということは、特定の外的要因の影響を受けやすいことを意味します。
NAS デバイスには複数のハード・ドライブが密集して搭載されています。そのため、NAS ドライブの性能に対する温度や振動などの影響の度合いが大きくなります。このような環境的影響を回避するには、さまざまな方法があります。
例えば、ハード・ドライブ・メーカーが、このような環境に対応する機械式ハード・ドライブを設計・開発するという方法が挙げられます。振動などへの対応が、コンシューマー・グレードのものよりもはるかに優れたドライブです。
また、温度や振動などの外的ストレスが少ない環境に NAS ドライブを構築・設置するという方法もあります。
エンタープライズ・ソリッドステート・ドライブ(SSD)
SSD(またはフラッシュ・ドライブ)は、HDD よりも高速であるだけでなく、機械的な可動部品を必要としません。フラッシュ・メモリは、フラッシュ・メモリ・セル内の電荷によってビット情報を記録します。したがって、SSD は、HDD と比較して小さなフォーム・ファクタでより多くの情報を記録できるようになり、かつ、高速な読み書きが可能になっています。
ただし、このように高性能な SSD は高価なうえ、SSD セル内のトランジスタの寿命が比較的短いという課題があります。このような理由から、SSD は性能重視のワークロード向けに、HDD は長期間のバックアップやアーカイブ向けに利用されてきました。
しかし、フラッシュのテクノロジーは進化を続けています。ピュア・ストレージでは、フラッシュ・メモリの信頼性を高めるとともに、エンタープライズ向けのオールフラッシュ NAS ソリューションに、要件の厳しいワークロードをサポートするための対策を実装しています。
コントローラ側に実装された温度対策やデータ削減の技術は、NAND セルの寿命延長に貢献しています。SSD を、ダウンタイムを伴わずに容易にアップグレードできるように NAS デバイスを設計し、NAND の寿命問題にも対処しています。
NAS の構成図は、ストレージ・デバイスの履歴管理に役立つ
NAS の履歴が重要な理由は何でしょうか? NAS デバイスは、いったん設置されると、特別なことが起こらない限り、そのままの状態で置かれます。管理者は、数か月、数年の間、NAS に触れることがないケースが多く、NAS がどのようにデプロイされたかを記憶するのが困難な状況となります。担当者が交代している場合もあります。NAS の構成図を作成しておくことで、NAS がデプロイされた経緯がわかり、さらに、NAS に使用されているドライブについての詳細を確認できます。ドライブが故障した場合には、このような情報が役立ちます。故障したストレージ・デバイスの交換用に、同一のドライブや同等のドライブを購入することができます。
NAS の機能
最近の NAS アプライアンスは、単なる「ネットワークに接続されたストレージ」ではなく、小型サーバーとしての役割を果たしています。コンシューマ向けの低グレードの NAS デバイスには、ネットワークに接続されたストレージの域を出ないものがあります。しかし、NAS デバイスの多くは、Docker コンテナや仮想マシンなどをホストする機能を備えており、iSCSI にも対応しています。
このような背景により、NAS デバイスは小型サーバーと同様の扱いが適していることになり、NAS の構成を文書化しておく必要性が生じます。NAS の構成図により、NAS の仮想化インフラ、ユーザー・アカウント、権限、共有設定などの情報を共有できます。
NAS デバイスは、複雑になることがあります。例えば、NAS が、Web サイトをホストするために二つの役割を果たしているケースでは、Web サーバー(Apache、Nginx など)、MySQL などのデータベース・エンジン、Node などのスタック、リバース・プロキシもホストすることになります。
この他に、組織の規模によっては、NAS が以下のような多くの機能を担う場合があります。
- ソフトウェア開発のための Visual Studio Code(VSCode)環境のホスティング
- ローカルの GIT リポジトリ(Web サーバー)のホスティング
- Node.JS クラスタのホスティング
- SQL データベースのホスティング
- Mongo データベースのホスティング
- リモートワークのための Windows VM のサポート
- バックアップ・デバイスとしての機能
- プライベート・クラウド・ストレージのホスティング(顧客向け)
このような用途は少なくありません。ビジネス・財務的な側面からも、計算能力と十分なストレージ容量を備えた NAS をファイルの保存以外の用途に活用することは理にかなっているといえます。
NAS の構成図を作成すべき理由
利用中の NAS に問題が生じた場合や、ハードウェアやソフトウェアのアップデートが必要な場合には、担当の技術者は、NAS の元の構成について知る必要があります。何年も前にデプロイされた仮想 Web サーバーの構成を知るにはどうすればよいでしょうか?
NAS の構成図を作成すべき理由がここにあります。NAS の構成図により、トラフィックが ISP からルータを経由して取り込まれ、リバース・プロキシを通して適切なサービスに到達するフローを知ることができます。また、どのようなソフトウェアが、どのような経緯で使用されていたかという情報もわかります。
NAS の構成図の作成には、IT 担当者の交代に備えるという目的もあります。担当者の交代は、IT 業界ではよく起こることであり、IT 技術者の間には、IT サービスの引き継ぎのための共通の手順があります。引き継ぎをスムーズに行い、後任者が IT 環境に関して必要な情報を確実に得られるようにサポートしたいと考える優秀な IT 技術者は、引き継ぎ手順の一環として文書化を実践します。
NAS の構成図の作成方法
NAS の構成図の作成は難しいことではありません。便利な専用ツールがたくさんあります。
一例として、draw.io は、無料で利用できる多機能のドローイング・ツールです。ソフトウェア開発、プロジェクト管理、IT インフラの管理に利用できます。これらのユースケース用に、ツールやワークフローがあらかじめ定義されています。
特筆すべきは、draw.io は、Google ドキュメントや OneDrive などの SaaS 製品と統合されている点です。draw.io にはセルフホスト版もあります。
まとめ
NAS の構成図が役立つ場面は多く、作成すべき理由として次のような例が挙げられます。
- ドライブなどのコンポーネントが故障した場合に、同一または同等のデバイスと交換できる。
- 複雑な NAS の構成を図で示しておくことで、将来のトラブルシューティングやアップグレードに役立つ。
- IT 環境を文書化しておくことで、新しい IT 担当者への引き継ぎに備える。
draw.io を利用すれば、NAS の構成図を容易に作成できます。ブラウザ版およびセルフホスト版が提供されており、IT インフラの構成図を作成するための機能が用意されています。